和歌山地方裁判所 平成10年(ワ)112号 判決 1998年6月17日
主文
一 被告ローヤル薬品工業株式会社は、原告に対し、
1 別紙物件目録一ないし三<略>の各不動産に係る別紙根抵当権目録一<略>の根抵当権について
2 別紙物件目録四ないし六<略>の各不動産に係る別紙根抵当権目録二ないし四<略>の各根抵当権について
3 別紙物件目録七及び八<略>の各不動産に係る別紙根抵当権目録五、三及び四<略>の各根抵当権について
4 別紙物件目録九<略>の不動産に係る別紙根抵当権目録六、三及び四<略>の各根抵当権について
5 別紙物件目録一〇及び一一<略>の各不動産に係る別紙根抵当権目録七、三及び四<略>の各根抵当権について
6 別紙物件目録一二ないし一九<略>の各不動産に係る別紙根抵当権目録八ないし一〇<略>の各根抵当権について
7 別紙物件目録二〇及び二一<略>の各不動産に係る別紙根抵当権目録一一、九及び一〇<略>の各根抵当権について
それぞれ、平成九年五月二三日元本確定を原因とする根抵当権元本確定登記手続をせよ。
二 被告に甲野春子、同甲野夏子、同甲野一郎、同甲野秋子、同甲野冬子、同乙川花子及び丙山喜子は、いずれも原告に対し、
1 別紙物件目録二二<略>の不動産に係る別紙根抵当権目録一二<略>の根抵当権について
2 別紙物件目録二三<略>の不動産に係る別紙根抵当権目録一一、九及び一〇<略>の各根抵当権について
それぞれ、平成九年五月二三日元本確定を原因とする根抵当権元本確定登記手続をせよ。
三 訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
一 原告は、主文第一、二項と同旨の判決(ただし、登記原因は平成九年五月二四日元本確定)を求め、その請求原因として次のとおり主張した。
1 被告ローヤル薬品工業株式会社(被告会社)は、原告(旧商号・株式会社興紀相互銀行)との間で、
(一) 昭和四一年二月二五日、根抵当権設定契約を締結し、同社が所有する別紙物件目録一ないし三<略>の不動産に、別紙根抵当権目録一<略>の根抵当権を、
(二) 昭和四七年一一月一〇日、根抵当権設定契約を締結し、同社が所有する別紙物件目録四ないし六<略>の各不動産に、別紙根抵当権目録二<略>の根抵当権を、
(三) 昭和四九年三月一一日、根抵当権設定契約を締結し、同社が所有する別紙物件目録七及び八<略>の各不動産に、別紙根抵当権目録五<略>の根抵当権を、
(四) 昭和四九年五月一五日、根抵当権設定契約を締結し、同社が所有する別紙物件目録九<略>の不動産に、別紙根抵当権目録六<略>の根抵当権を、
(五) 昭和四九年九月三〇日、根抵当権設定契約を締結し、同社が所有する別紙物件目録一〇及び一一<略>の各不動産に、別紙根抵当権目録七<略>の根抵当権を、
(六) 昭和五九年八月二二日、根抵当権設定契約を締結し、同社が所有する別紙物件目録四ないし一一<略>の各不動産に、別紙根抵当権目録三及び四<略>の各根抵当権を、
(七) 昭和四七年一一月二〇日、根抵当権設定契約を締結し、同社が所有する別紙物件目録一二ないし一九<略>の各不動産に、別紙根抵当権目録八<略>の根抵当権を、
(八) 昭和五五年一〇月八日、根抵当権設定契約を締結し、同社が所有する別紙物件目録二〇及び二一<略>の各不動産に、別紙根抵当権目録一一<略>の根抵当権を、
(九) 昭和五九年八月二二日、根抵当権設定契約を締結し、同社が所有する別紙物件目録一二ないし二一<略>の各不動産に、別紙根抵当権目録九及び一〇<略>の各根抵当権を、
それぞれ設定し、各根抵当権設定登記手続をした。その後、別紙根抵当権目録一、二、五ないし八<略>の各根抵当権については、右目録<略>のとおり極度額の変更の合意がされ、その旨の登記が経由された。
2 甲野太郎(太郎)は、原告との間で
(一) 昭和四六年四月一六日、根抵当権設定契約を締結し、同人が所有する別紙物件目録二二<略>の不動産に、別紙根抵当権目録一二<略>の根抵当権を、
(二) 昭和五五年一〇月八日、根抵当権設定契約を締結し、同人が所有する別紙物件目録二三<略>の不動産に別紙根抵当権目録一一<略>の根抵当権を、さらに昭和五九年八月二二日、根抵当権設定契約を締結し、別紙物件目録二三<略>の不動産に、別紙根抵当権目録九及び一〇<略>の各根抵当権を、
それぞれ設定し、各根抵当権設定登記手続をした。その後、別紙根抵当権目録一二<略>の根抵当権については、右目録<略>のとおり極度額の変更の合意がされ、その旨の登記が経由された。
3 太郎は、昭和六〇年一〇月一六日死亡した。太郎の身分関係は、別紙相続関係説明図のとおりである。
4 大蔵大臣は、平成八年一一月二一日、銀行法二六条に基づき、原告に対し、業務停止命令を発したため、原告は一切の融資取引を行うことができなくなった。原告は、平成九年一月二〇日、右業務停止命令に対し、行政不服審査法に基づく異議申立てを行ったが、大蔵大臣は、同年二月二一日付けで右異議申立てを棄却し、原告は同月二三日これを知った。原告は、右業務停止命令に対し、行政訴訟を提起しなかったので、本件根抵当権は、原告が大蔵大臣の棄却決定を知った同月二三日の翌日から起算して行政事件訴訟法が定める出訴期間である三か月を経過した日の翌日である同年五月二四日、原告と被告との取引終了により担保すべき元本の生じないこととなり、民法三九八条の二〇第一項第一号により元本が確定した。
5 よって、原告は、被告会社に対し、前記1の各根抵当権の各元本確定登記手続を求め、その余の被告らに対し、前記2の各根抵当権の各元本確定登記手続を求める。
二 被告らは、いずれも請求棄却の判決を求め、被告丙山喜子は、請求原因2及び4の事実は不知、同3の事実は認めると述べ、別紙物件目録二二及び二三の不動産は甲野次郎が単独で相続したと主張し、その余の被告らは、請求原因1ないし3の事実は認め、同4の事実は不知と述べ、本件の各根抵当権に係る被担保債権の原因となる取引は太郎が死亡した昭和六〇年一〇月一六日時点で既に終了して被担保債権は存在しないし、仮にそうでないとしても、現時点においては時効により被担保債権は消滅していると主張した。
三1 請求原因1の事実は、原告と被告会社との間において争いがない。
2 同2の事実は、原告と被告丙山喜子を除く被告らとの間においては争いがなく、原告と被告丙山喜子との間においては、甲第二二、第二三号証、第二七号証、第三五ないし第三八号証により認められる。
3 同3の事実は、当事者間に争いがない。そうすると、太郎の法定相続人は、妻である被告甲野春子、長男甲野次郎(次郎)、長女の被告丙山喜子、二女の被告乙川花子である。また、次郎は、平成四年六月三日死亡したが、その法定相続人は妻の被告甲野夏子、長男の被告甲野一郎、長女の被告甲野秋子、二女の被告甲野冬子である。
4 同4の事実のうち、大蔵大臣が平成八年一一月二一日に銀行法二六条に基づき原告に対し業務停止命令を発し、原告は一切の融資取引を行うことができなくなったこと、原告は、平成九年一月二〇日、右業務停止命令に対し行政不服審査法に基づく異議申立てを行ったが、大蔵大臣が同年二月二一日付けで右異議申立てを棄却し、原告は同月二三日これを知ったが、行政訴訟を提起しなかったことは、甲第三九号証及び弁論の全趣旨により認めることができる。そうすると、右業務停止命令に係る取消訴訟の出訴期間は右棄却決定を知った平成九年二月二三日から起算して(初日算入)三か月を経過した五月二二日の満了により経過したことになる(最高裁昭和五二年二月一七日第一小法廷判決・民集三一巻一号五〇頁参照)から、同月二三日に本件の根抵当権の元本が確定したものというべきである。
なお、被告丙山喜子を除く被告らは、本件の各根抵当権に係る被担保債権の原因となる取引は太郎が死亡した昭和六〇年一〇月一六日時点で既に終了している旨主張し、右は、同日には右各根抵当権の元本は確定した旨の主張と解する余地もあるが、これだけでは当時元本確定事由が生じたと認定するには足りない(もっとも、甲第四〇号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、右時点以後に新たに発生した被担保債権はないことが認められるから、いずれにせよ被担保債権の額に差異が生じることはない。)。
四1 ところで、根抵当権の元本の確定とは、当該根抵当権によって担保される被担保債権のうち元本債権については流動性を失って確定時に存在するものに限定され、以後新たに発生する元本債権が当該根抵当権により担保されることがなくなるいうものであるところ、被担保債権の有無にかかわらず、元本確定事由の発生により当該根抵当権が当然に確定するのであり、元本確定登記は元本確定の事実を報告的に公示するものに過ぎず、被担保債権の存在や額を公示するものではないから、確定した根抵当権に係る被担保債権の消滅を主張して当該根抵当権設定登記の抹消を求めるのは格別、元本確定の登記手続請求に対して被担保債権の消滅を主張しても、それは主張自体失当というべきである。
2 そして、根抵当権の元本確定登記請求の登記権利者及び登記義務者となる者は根抵当権者及び根抵当権設定者であるところ、甲第二二、第二三号証によれば、別紙物件目録二二及び二三の不動産の所有名義は、右各不動産に係る各根抵当権の設定者で設定当時の所有者である太郎のままであることが認められるから、前記三3により、被告会社を除くその余の被告らが相続により根抵当権設定者の地位を承継したものというほかはない。
五 よって、被告会社は主文第一項の、その余の被告らは主文第二項の、各元本確定登記手続をすべき義務がある。
(別紙)物件目録<略>
根抵当権目録<略>